『審美眼』と言う言葉がある。
平たく言うと、『美を的確に見極める能力』だ。
寺村拓也は『理』を的確に見極めることが出来た。
それは、さしずめ『審理眼』とでも呼べるもの。(そんな言葉は日本には存在しないが)
寺村拓也の眼は、この世の理に生じる、微かな違和感を見逃さない。
言葉、外見、表情、仕種、ありとあらゆるツールが、違和感を以って彼に語りかける。
『コレは嘘だ。』
と。彼の眼に見抜けない嘘は、皆無。
彼の眼に映るものは、『真実』のみ。
だから彼は、その『才能』を最大限に活かす職業を選択した。
全てが順調だった…そう。あの、うだつの上がらなさそうな刑事の『依頼』を受けるまでは…
【寺村拓也編・第壱話】
それは、全くの偶然だった。
”たまたま”冴えない男が『その写真』を持って、私の事務所を訪れた。
”たまたま”その時に、テレビがつけっぱなしになっていた。
”たまたま”そのテレビのニュースに『ある人物』が映っていた。
それは、日本で最も有名な人物。
日本の顔とも呼べる者。
そして、私は気づいてしまった。
テレビから感じる違和感。
ソレが、写真からもたらされるものであると言うことに。
写真が無ければ、テレビをつけていなければ、気づかなかったであろう違和感。
しかし、私は気づいてしまった。
写真に写る『彼』と、テレビに映る『彼』とが、同一人物であることに。
それは、とても不幸なこと。
『知らない方が幸せな事実』
なんて、この世には、ごまんとある。
『ヴィヴィアン』については、私も少なからず、興味があった。
だから、この冴えない刑事が依頼を持って来た時、私は多少の高揚感を感じていた。
だが…これは、もはや私個人がどうこう出来るレベルの話ではない。
もしも、今テレビに映っている『彼』が事件に関わっているのなら…
私は消されるかもしれない。
全く。とんでもない案件を持って来てくれたものだ。
こいつは死神か??とぼけた顔しやがって。
とにかく、この依頼は断らなくてはダメだ。
そう思った矢先のことだ。私は窓の外に、『ある違和感』を感じた。
4つの格子に切り取られた、小さな風景に紛れ込んだ、小さな異物。
常人ならば決して気付くことのない、微かな光。
職業柄、たまに感じることがある、頭から爪先まで、ねっとりと纏わり付くような嫌悪感を伴う『違和感』…
そう。これは、『監視されている』時に感じるモノだ。
最悪だ…一体いつから??誰が??何のために??この男を付けてきたのか??
だとしたら…くそ。くそ。くそ。くそ。くそ。くそ。くそ。
井上誠って言ったか??呑気な顔しやがって!!
簡単に尾行されてんじゃねーよ!!
くそ!!こいつ、刑事って言ってたよな。
役職は…巡査部長??愚図が!!
巡査部長ごときが、どうこう出来る事件じゃねぇんだよ!!
私は目の前にいる、愚鈍な男を猛烈に罵ってやりたい衝動に駆られながらも、今出来る最善の行動を模索していた。
とは言え、相手は『権威』の最高峰。
私に出来ることなど何一つ無いと言っても過言ではない。
この状況は文字通り、『詰んだ』も同然。
ならば、いっそ…
井上「ど、どうでしょう??何かわかりそうですか??」
私は、目の前で愚劣な笑みを浮かべる愚鈍を極めた愚図を見て考える。
全くアテには出来ないが…
目には目を。権威には権威を…
万に一つ。いや、億に一つの可能性に賭けて、コイツをけしかけるか。
『警察』と言う名の権威が、果たして、『国そのもの』と言っても過言ではない権威に、どこまで立ち向かえるのかは、わからないが…
私は奇跡が起こることを願い、目の前の愚図…井上誠に『私が見抜いた真実』を告げることにした。
寺村「単刀直入に言います。この写真の男が、事件にどう関与しているかまではわかりませんが…
この男は…」
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この選択が、大きな間違いであったことに気づいたのは、それから数日後のことだった。
いや。私が『真実』に気づいてしまった時点で、選択肢など無かったのかもしれない。
この国にとって、『ヴィヴィアンに触れること』は罪なのだ。
そして罪は償わねばならない。
今、私はその償いを行うために、裁判所…いや、『裁判所を模した部屋』にいる。
私をこんな異常事態に巻き込んだ愚図…井上誠と共に。
部屋にいるのは、私達を含めた8人の男女。
催されるは、悪魔の審判。
ペイヴィットと名乗る者から告げられた『セカンド・ゲーム』のルールは至極単純なもの。
・2卓に分かれての半荘1回勝負
・アリアリ。箱アリ。
・それぞれの卓で、トップを獲った者が…
『誰を殺すか』を1名指名する…
それは、人の奥底に眠る深い闇が顔を覗かせる、忌まわしいゲーム。
このゲームの行き着く先に未来があるのかどうかはわからないが…
ひとまずは、今を生き延びよう。
私が勝った暁には…お前を指名してやろう。
私をこんな目に合わせた張本人…井上誠!!
つづく
【Profile 9】
氏名:寺村拓也
職業:探偵
好きなもの:カピバラ
好きな台詞:寄生とは、漢字で『寄り添い生きる』と書きます。
特技:宴会芸
麻雀の称号:寄生虫
備考:変態だけど、とってもいい人です。